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カテプシンK物語~研究組織の組み換え~

破骨細胞活性解明には二つの大きな課題がありました。その一つは分子生物学担当者のヘッドハンティング。もう一つは最低1,000万個の破骨細胞を如何にして収集するか、でした。

この2年前に、我が教室の講師を国立大学歯学部の教授として送り出しました。その後任の選考では、従来の年功序列ではなく、3名の助手の中で一番若い助手から講師を選びました。

その選考にあたっては、私がテキサス大学歯学部に留学していた頃に学んだ実力主義が根底に流れていたと思います。その時、助教授選はすべて白紙状態である、ということも3名に付け加えておきました。自分では最高の選考を行うことができたと現在でも確信しています。

さて、この仕事を行うためのヘッドハンティングです。結論から言うと受け入れの環境作りに7カ月を要しました。誠意と忍耐の7カ月でしたが、現在の視点でみれば、いささか「問題あり」という声もあるかも知れません。

当の助手には今後の仕事内容を説明し、最後は再就職の紹介まで行いました。20回くらいの話し合いを持ったでしょうか。最終的には理科系の記者を求めている地方紙に紹介しました。二次試験まで合格も、17時以降は拘束されたくないとのことで新聞社への再就職を辞退、6月のボーナスをもらったのち退職してくれることとなりました。

その後で、以前から交流のあった或る外資系製薬会社の研究員と交渉し、我々の研究に参加してもらえることとなりました。前任者の問題もあって、この人選に要した7カ月は綱渡り的なものでした。

中途採用者は新しい職場での人間関係構築が難しい、とよく言われます。しかし彼は他のメンバーとも大変上手くやってくれました。能力面でも人格面でも最高でした。

彼の採用にあたっては採用期間3年ということのほかに、以下の条件について話をしました。

1. 破骨細胞に特異的な遺伝子のクローニングを行う。我々全員でその資料を収集、提供する。
2. 彼が学位を取得することをバックアップする。
3. 3年後の留学についてもバックアップする。

もっともこれには別段書類を用意したわけではありません。

カテプシンKの発見後、周囲からは「なぜ今彼を手放すのか」という意見もありました。しかしこれはもともとの約束が3年であったので、これ以上引き留めることは彼の将来にとって必ずしも良くないと判断して、ドイツの老舗化学品・医薬品メーカーであるメルク社の研究所に喜んで送り出したのです。
by rijityoo | 2012-07-19 11:42 | カテプシンK物語(23) | Comments(0)