2011年 10月 11日
遠藤日記から
「誰の目にも "凄い!” と映るニュースはそれなりに報道価値があることなのでまあ
良いとして、実は新聞記事の中には大事なことなのに大方の読者がその意味を見過
ごし兼ねないものがあるので注意が肝要です。
例えば、2011年9月28日付け朝日新聞朝刊(東京本社13版7頁)に、
http://tokyo-consul.com/news/20110929-3.html
認知症入院、2か月まで 精神科病棟 短縮へ目標値 厚生労働省
厚生労働省は27日、認知症患者の精神科病棟への入院が長期化していると
して、2020年度までに入院患者の半数を2か月以内に退院させるという目標値
を決めた。
08年の調査では、認知症で精神科に入院する患者の半数が退院するまで、6
カ月かかっていた。しかし、入院が3カ月以上に及ぶと、入院前にいた施設に別
の人が入所して戻れなくなることが増えたり、患者の心身の機能が低下したりし
て、再び地域や自宅で受け入れることが難しくなるという。また問題行動の多くは、
治療により1カ月程度で治まるとの意見もある。
「入院を前提とするのではなく、地域での生活を支えるための精神科医療とする」
と明記。入院期間の目標値を設定し、病状が安定している患者の入院期間短縮を
図る。 ・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・
とあります。
多くの読者は見過ごしてしまうであろう目立たない記事ですが、殊勝にも読んだ人
でも、この辺にあまり詳しくない人なら、”社会的入院” が常態化している現状からする
と、「一歩前進だな!」と錯覚し兼ねない内容です。
簡単に言ってしまえば、仮に「目標」を達成して退院させたとしたら、空いたベッドを
どうするのですか。我が国では精神科病院の多くは民間病院ですから、統合失調症の
入院が減少している現状からしたら、認知症の人々を受け入れる一般社会の環境が整
っていないが故に現在入院待ちをしている認知症の人を直ぐに新たな患者として入院
させるだけでしょう。これでは全く現状の改善にはなりません。
当然検討チームの委員内にもこの点についての批判的意見はありますから、以下
のようにその点に触れた報道もあります。
http://www.carenet.com/news/det.php?nws_c=24165
認知症患者の入院短縮など取りまとめ案提示−厚労省検討チーム
・・・・・ 意見交換では委員から、「目標値」について、「(取りまとめ案には)入院に
関する目標がない。『認知症患者の入院数を減少させるため』と入れてはどうか」(野村
忠良・東京都精神障害者家族会連合会会長)、「退院に関する目標しかないのは寂しい
ことだ。入院率の減少を目指してはどうか」(岡崎祐士・東京都立松沢病院院長)といっ
た意見が出た一方、「(取りまとめ案では)『入院を前提と考えるのではなく』と書かれて
おり、(この考え方は委員全員に)了承されて今まで議論が進んできた」(河�建人・日
本精神科病院協会副会長)とする声も上がった。
また、退院した認知症患者の受け皿について具体的な内容がないとして、「このような
総論的な言い方でいいのか」(東憲太郎・医療法人「緑の風」理事長)などの意見が出た。
このほか、認知症疾患医療センターや、入院中の精神科医療の質などについて十分な
議論がなかったとする指摘もあった。
ここでは更に、そもそも認知症患者が精神科病院へ入院する必要性があるのかとい
う基本的問題に立ち返って考え直してみることにしましょう。
先ず、例えば以下にある産経新聞の記事などを参照してください。
安心できる医療・介護に出会うために 【認知症版】
http://where-is-my-doctor.blog.so-net.ne.jp/2011-01-16
精神科病棟 増える認知症の人
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/living/health/481755/
また、最初に紹介した厚労省の ”入院を前提とするのではなく、地域での生活を支
えるための精神科医療” を先駆けて実践している下記の実例もみてください。
【石川】 認知症患者の訪問看護導入 県立高松病院
http://www.asahi.com/health/news/TKY201101200581.html
認知症:介護に医療の手 自宅や施設、精神科医師が往診 症状改善、入院回避へ
http://mainichi.jp/select/science/news/20111004ddm013100010000c.html
認知症の方を地域で支えるための精神科医療
http://www.yuki-enishi.com/ninchi/ninchi-01.pdf
つまり、精神科病院認知症治療病棟への入院料が規定されるのは、
http://www.e-rapport.jp/law/fee/fee003/09.html
・・・・・・ 認知症病棟入院料は、急性期の集中的な治療を要する精神症状
及び行動異常が特に著しい重度の認知症疾患患者、つまり、ADLにかかわ
らず認知症に伴なう幻覚、妄想、夜間せん妄、俳徊、弄便、異食等の症状が
著しく看護が困難な患者が対象 ・・・・・・
に限られるということを今一度しっかりと想起する必要があるということです。
なお、最後に一言。上述の中でも使った ”社会的入院” という言葉ですが、これ
は全く日本特有な事象を言っているので、翻訳して ”social hospitalization" と言っ
ても、入院日数が遥かに少ない諸外国の人には全然通じません。
そこで ”hospitalization without medical treatment for those who with no other
choice" (研究者新和英大辞典第5版)と説明したところで、事態は決して改善されま
せんので念のため。
先日は Lancet 誌が特集を組んでまでして褒めた日本の保険医療制度ですが,以
上はそこに潜む、しかし隠しようのない歴然たる日本の恥部の一つです。