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久米さんの科学映像便り

カテプシンK物語~初めに~

カテプシンKの阻害剤が骨粗鬆症治療薬として申請されるかも知れない、とのニュースが流れています。カテプシンKは、当時のチバガイギー社(現:ノバルティス社)と山之内製薬株式会社(現:アステラス製薬株式会社)との共同研究により、1989年に明海大学歯学部第一解剖学の研究室で発見された破骨細胞の特異酵素です。この酵素は破骨細胞が特異的に産生するもので、骨基質の主成分であるコラーゲンの分解に関与していることが明らかになっています。そのため、世界中の大手製薬会社がカテプシンK阻害剤研究開発の覇を競ったのです。

余談になりますが、フランスの天才画家ロートレックはこの酵素の先天的な異常を抱えており、そのため骨の形成不全が起こり、特異な風貌を余儀なくされ、また骨折を繰り返したため36歳でその生涯を終えています。
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ロ-トレックと代表作

第一解剖学研究室では、1980年からおよそ15年間にわたって、骨をテーマとした科学映画を小林米作氏と協同で全3作品を制作しましたが、私たちは、これらの映画から得た骨代謝に関する情報をもとに、多くの研究成果を挙げています。その一つが「破骨細胞の形成とその働きの解明」です。破骨細胞は血球幹細胞から形成される、ということを自治医科大学須田年生先生 と、世界に先駆けて明らかにしました。
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                                  小林米作氏との出会い。


これに次いで破骨細胞の働きへと研究を進めました。この研究には大量破骨細胞の収集は困難なため、分子生物学的手法を用いることとしました。ここで分子生物学研究者のヘッドハンティングや研究室の整備、そして破骨細胞の収集が最大の課題となりました。半年をかけて研究グループと研究室の整備を完了させ破骨細胞の収集へと準備を進めたわけですが、ここで大きな問題に直面しました。

純度の高い破骨細胞を多数得るために、使用動物の選択と破骨細胞の分離方法の確立に数カ月を要した苦しい思い出もあります。破骨細胞から釣り上げた遺伝子は数10個くらいですが、カテプシンKはその中の1個にすぎなかったのです。しかしその1個の遺伝子に目を付けたのは、当時参加していた若き研究者の慧眼にほかなりません。
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カテプシンKの異常による患者の骨

これらの仕事には1990年からおよそ8 年間を要しました。今振り返ればもっと違った、より効率的な方法もあったのではと、反省点も思い浮かびます。

これから、手元の資料と当時の関係者とのやり取りをもとに20年前を振り返って、カテプシンK同定に至るまでの詳細な道のりをまとめてみたいと思います。

参考文献
2.Gelb, B.D., Shi, G.P., Chapman, H.A., Desnick, R.J.: Pycnodysostosis, a lysosomal disease caused by cathepsin K deficiency. Science 273, 1236-1238, 1996.

 
資料:帝京大学名誉教授遠藤浩良先生からいただいた、カテプシンK阻害剤の資料

メルク社は7月11日、カテプシンK阻害を機序とする骨粗鬆症治療薬 odanacatib (オダナカチブ)の治験第3相試験について、途中解析結果で良好な有効性が示されたことから予定を繰り上げて打ち切り、早々と試験終了の手続きを開始すると発表しました。

(独メルク社ウェブサイト:2012年7月11日付ニュースリリース)
http://www.merck.com/newsroom/news-release-archive/research-and-development/2012_0711.html

Updeate on Phase III Trial for Odanacatib, Merck's Investigational Cat-K Inhibitor for Osteoporosis Study met its primary efficacy outcomes at first planned interim analusis and is being concluded early
(独メルク社による骨粗鬆症治療用カテプシンK阻害剤であるオダナカチブの治験第3相試験について、当初計画されていた中間解析の結果主要な有効性が示されたことから、予定を繰り上げて試験を終了へ)

この治験薬は、動物実験では、卵巣摘出サルを更年期女性の骨粗鬆症モデルとして、良好な結果が得られたことが既に報告されているものです。

(アメリカ国立生物工学情報センターウェブサイト:論文抄録)
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22113859
J Bone Miner Res. 2012 Mar;27(3):509-23. Odanacatib reduces bone turnover and increases bone mass in the lumbar spine of skeletally mature ovariectomized rhesus monkeys.
(オダナカチブが卵巣を摘出した赤毛サル成体の骨代謝を阻害するとともに、腰椎の骨量を増加させる効果)

  これでメルク社は、来年2013年前半には日米欧でオダナカチブの製造販売承認申請をする予定とのことです。それで、欧米のメディアは今この報道で持ち切りとなっています。

(Pharmatimes紙ウェブサイト:2012年7月13日付記事)
http://www.pharmatimes.com/Article/12-07-13/Merck_halts_Ph_III_trial_of_osteoporosis_drug_on_success.aspx


Merck halts Ph III trilal of osteoporosis drug on success
(独メルク社、骨粗鬆症治療薬の治験第3相試験において良好な結果が認められたため終了へ)

(Bioportfolioポータル:2011年7月11日付記事)
http://www.bioportfolio.com/news/article/1105212/Merck-Announces-Update-On-Odanacatib-Phase-Iii-Trial-For-Osteoporosis.html

Merck announces update on odanacatib Phase III trial for osteoporosis
(独メルク社、骨粗鬆症治療薬の治験第3相試験の中間結果を発表)

(Huffpost Helthy Living紙ウェブサイト:2012年7月12日付記事) 
http://www.huffingtonpost.com/2012/07/12/odanacatib-osteoporosis-drug-fracture-bone_n_1666631.html

Odanacatib: Osteoporosis Drug Reduces Fracture Risk in Trial
(骨粗鬆症治療薬オダナカチブ:治験において骨折リスクを低減させることが示される)

by rijityoo | 2012-08-06 06:30 | カテプシンK物語~はじめに~ | Comments(0)

今なぜ、科学映像館か? その舞台裏を語ります。