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•カテプシンK物語~クローニン裏話

これまで私は「カテプシンK物語」を合わせて13編書いてきましたが、どうせ20年前のこと、と私自身も思っていました。ところが意外にも沢山の方に読んでいただいております。ここ10日でで250件のアクセスがありました。「全部コピーして読んでいます」とのメールも届きました。

そこで今回はもう少し内容の濃い話を掲載して今までの償い(?)をしようと思い、ここからは当時の担当者にお願いすることとしました。今回はカテプシンKのクローニングについての裏話を元明海大学手塚建一助手に書いてもらいました。題して「カテプシンK物語~クローニング裏話~」です。

現在彼は岐阜大学大学院医学系研究科の准教授として「日本人HLAハプロタイプホモ歯髄細胞コレクション~医療廃棄物から取り出す低コストな再生医療資源~」と題するプロジェクトの推進者として頑張っています。それでは本題のクローニング裏話の始まりです。


「久米川先生が先頭に立って運営されていた研究室は、まるで外国のようでした。壁には、海外からセミナーや短期の研究のために訪れた何十人もの外国人研究者の写真が飾られ、その一角に、パーティションで区切られた実験室がしつらえてありました。小さいながら、26歳にして初めてまかされた研究室(区画?)です。

まず、RNAという物質はとても分解しやすいので、約200度という高温で試薬ビンを焼いて使うのですが、その温度に耐えるビンが高価でした。当時の日本の研究室では、ガラスの容器を洗って何度も使うのが常識でしたが、久米川研究室では「ディスポーザブル(使い捨て)」の容器やピペットが、すでに多く使われていました。培養用に作られているために、とてもきれいです。

そこで、これを培養室からくすねて来て、試薬ビンの代わりに使う事にしました。さらに、当時売り出されたばかりの「キット」と呼ばれる試薬のセットを、惜しみなく使わせてもらいました。普通だったら、自分で作れと言われるところですが、ひとつでも失敗すると実験全部がパーです。それにひとつひとつの単価は高いですが、品質管理をしなくて良いので、すべての試薬を自分で作るのに比べて、圧倒的にパフォーマンスが高いのです。

久米川先生のご理解のもと、当時の常識をことごとく裏切ったおかげで、7月の赴任を前にセットアップができてしまいました。そして、初めて破骨細胞のRNAを取る日がやってきました。当時の記録によると、1991年6月29日。赴任2日前です。ウサギ5匹から40万個の破骨細胞が取れたとあります。そこから超遠心法という方法を使って約5gのRNAが取れました。成功です。うれしかったのでしょう。写真の脇にTotal 2~5gと書いて、四角く囲ってあります。

しかし、そこからが前人未到の領域への挑戦です。実験ノートは連日失敗と方法の改良の連続。Failed!とかGive up!!とかバツ印とかが並んでいます。それでもなんとか2個の破骨細胞特異的遺伝子を見つけ、翌年2月18日には、最初のクローン「オステオポンチン」が同定されました。クローン番号は10番。

もうひとつの8番は、どうも未知のもののようでしたが、まだ確信はありません。ただのゴミかもしれません。実際8番は遺伝子が一部壊れていました。仕方なく最初に戻って、同じ遺伝子を持っていると思われる別なクローンの解析に取りかかります。もしかしたら、偽遺伝子という何の役割も持たない遺伝子かもしれないという不安を抱えながら、最終的に全配列がほぼ確定したのが6月末。最初のRNAが取れてから、ちょうど1年後でした。
•カテプシンK物語~クローニン裏話_b0115553_10181123.jpg

中央の写真はOC-2(矢印)が破骨細胞に局在していることを示しています。

今度は、ちゃんとタンパク質らしき物をコードしており、カテプシンLという遺伝子に近い別な遺伝子であろう事が推察されました。OC-2の誕生です。今思えば何十個も拾ったクローンの、最初の10個に重要な物が含まれていた事になります。ビギナーズラックを馬鹿にしてはいけません」


私からのコメント:子供の苦労を親はほとんど感知していませんでしたね。無限のプレッシャーをかけていたのかもしれません。しかし彼によく言ったものです。「自由に思い切りやればいい。責任は親がとるから」と。

参考文献

Tetsuka,K.,Sato,T.,Kamioka,H.,Nijweide,P.J.,Tanaka,K.,Matsuo,,T.,ohta,M.,Kurihara,N.,Hakeda,H. and Kumegawa,M:Idenntification of osteopontin in isolated oasteoclasts.Bioechem.Biohys.Res.commun.,186,911-917,1992


Tetsuka,K.,Tetsuka,Y.,Maejima,A.,Sato,T.,Nemoto.,K.,Kamioka,H.,Hakeda,Y.,and Kumegawa,K:Molecular cloning of a possible cystein proteinase predomintly expressed
osteoclasts.J.Biol.Chem.,269,15006-15009,1949.

Tetsuka,K.,Nemoto,K.,Tetsuka,Y.,Sato,T.,Ikeda,Y.,Kobori,M.,Kawashima,H.,Eguchi,H.,Hakeda,Y.and Kumegawa,M:Idenntification of matorix metalloproteinase 9 in raibit osteoclasts.J.Biol.Chem.,269,15006-15009,1994
by rijityoo | 2012-07-27 16:12 | カテプシンK物語(23) | Comments(0)