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カテプシンK物語~ひと巨細胞腫との出会い

破骨細胞の分離に最初のトライには、長期招聘留学制度により私の研究室に来室していた英国のホートン博士 が確立した、巨細胞腫から得た単抗体(ホートン抗体)を用いました。単抗体の使用です。この巨細胞種はヒトの長管骨に発生する多くの巨大細胞から成る良性の腫瘍です。しかし破骨細胞採取には、我々は腫瘍自身に全く頭にありませんでした。いまにしてみれば勉強不足だったということでしょうか。

もしこの腫瘍を破骨細胞の材料として考えていれば、もっと楽に破骨細胞を採取できたかもしれません。この腫瘍との出会いは全くの偶然でした。大阪大学医学部大学院生が彼の仕事についてのコメントを求めて来室したこともありましたが、あまり適格なコメントは出来ませんでした。

その頃ちょうど我々は映画「Osteocyte(骨細胞)」を制作していたところで、その一部を見て彼から貴重なコメントをもらいました。その後教室での会話中に、彼が使用していた資料はヒトの巨細胞腫であることが分かり、整形の分野ではこれが多く得られることから、腫瘍を提供してもらえることになりました。

巨細胞種との出会いでした。

その後大阪大学医学部から大量の腫瘍が提供され、ウサギと同様に巨細胞を分離してクローニングを行い、巨細胞に特異的な遺伝子を得ることが出来ました。

これとともに、タンパク質からカテプシンKを究明するにはウサギから得た破骨細胞では量的に間に合わず、この巨細胞腫が大きな力を発揮してくれたものです。

私たちは破骨細胞の収集にウサギを使用して苦労したのですが、しかしこれは必ずしも回り道しただけではなかったと思っています。あのノウハウがあって初めてヒトの巨細胞からも破骨細胞が得られたのです。またカテプシンKは腫瘍細胞ではなく、正常の細胞から得たものと言うお墨付きにもなりましたから。
by rijityoo | 2012-07-29 10:38 | カテプシンK物語(23) | Comments(0)