2012年 08月 06日
カテプシンK物語~ヒトカテプシンK酵素の精製~
さて、いよいよヒトカテプシンK酵素の精製です。ここで、先に久米川先生が説明された「骨巨細胞種」の出番です。本腫瘍組織は破骨細胞様多核細胞(写真)を多く含む軟組織ですので、本酵素の抽出も容易に行えると考えられました。大阪大学病院から十分な量の腫瘍組織を提供してもらえることとなり、早速抽出を試みました。
さて、いよいよヒトカテプシンK酵素の精製です。ここで、先に久米川先生が説明された「骨巨細胞種」の出番です。本腫瘍組織は破骨細胞様多核細胞(写真)を多く含む軟組織ですので、本酵素の抽出も容易に行えると考えられました。大阪大学病院から十分な量の腫瘍組織を提供してもらえることとなり、早速抽出を試みました。
当時の助教授で生化学に極めて明るい羽毛田慈之博士(現明海大学教授)に界面活性剤の選択など適切なアドバイスをいただいたこともあり、カテプシンKの分離は思いのほか順調に進みました。はじめは、前回書いた抗カテプシンK抗体を用いて、アフィニティークロマトグラフィーで精製することなどを予定していましたが、実際には硫安分画と陰イオン交換カラムのみで、かなりの程度まで精製することができました。硫安分画において、カテプシンKが相当な高濃度まで沈殿しなかったことが大きな要因でした。
まず、他のカテプシン(カテプシンLやSなど)でよく用いられる人工基質を用い、様々なpHにおける活性を調べたところ、ほぼ中性付近で高い活性を示すことが分かりました。一般論として、カテプシン類は酸性環境のリソソームでタンパク質分解を担う酵素であり、この結果は少々意外でしたが、その後、この至適pHは基質の種類にも依存することなどの性質も徐々に明らかになりました。
さて、この様に、私は久米川先生の研究室に出向して、活性を有するネイティブのヒトカテプシンKを分離することに成功しましたが、さらに詳細な解析や、阻害剤開発のためのアッセイに用いるためには十分な量ではありません。
そのため、日本チバガイギーの宝塚研究所では、並行して安定供給可能な組換え型酵素の産生を試みていました。先に試みた大腸菌発現系では芳しい成果が得られなかったため、昆虫細胞の発現系を用いたところ、ネイティブヒトカテプシンKとほぼ同様な活性を示す組換え型酵素が得られることがわかりました。そこで、組換え型酵素を本格的に大量生産し、阻害剤探索のためのアッセイ系を構築することになり、私も約4か月の出向を終えて宝塚に戻ることが決まりました。ところが・・・。
1995年の年明け早々、当時借りていた坂戸駅前のマンションの部屋も片付け始めた頃、それは起こりました。1月17日、阪神淡路大震災です。
補足:当時、手塚助手は米国のメルク研究所に旅たち、後任に東京農大大学医院を卒業した真野博助手が赴任していました。神戸大震災の際、関西からもう一人、塩野義製薬の覚道さんが、参加していました。研究室のテレビで大震災の模様を心配そうに見ていた新婚早々の覚(彼のニックネーム)ちゃんに「実験はいいから早く帰ってあげなさい」と言った記憶があります。また研究室で募金を募り、新聞社に送ったことも蘇りました。
当時のグループは秩父の夜祭(小生も初めて)に出かけたり、魚釣りにも遠く、山梨県の小金沢まで通いました。筆者も地元故、立派に運転手の役目をはたしていました。秩父の夜祭では、秘書石井幸子さんの実家でごちそうになり、夜祭へと。
魚釣り、しかし寒くて、寒くて
しかし仕事では各自がそれぞれの分担をこなし、お互いにバックアップしながら能率的に動いていましたね。最高のメンバーに恵まれていたと思います(オリンピック選手のコメントみたいです?)。
参考文献
Ishibashi, O., Inui, T., Mori, Y., Kurokawa, T., Kokubo, T., Kumegawa, M.: Quantification of the expression levels of lysosomal cysteine proteinases in purified human osteoclastic cells by competitive RT-PCR. Calcified Tissue International, 68; 109-116, 2001.