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久米さんの科学映像便り
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プロフィール
科学映像館理事長の久米さん。映像遺産を守り、生かすための日々!
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カテプシンK物語~その阻害剤
石橋先生から最後の原稿が届きましたのでご紹介します。

さて、カテプシンK物語の私の担当分もいよいよ今回で最後になります。

前回のアンチセンスDNAを用いた研究により、カテプシンKは骨粗鬆症治療薬開発の極めて有望なターゲットであることが示されました。当時、カテプシンK研究の競争が激化していたことから、我々はこの成果を素早く論文にまとめ、Journal of Biological ChemistryのCommunicationsに投稿しました。当時の日本チバガイギー研究所は、企業でありながらもアカデミックな雰囲気があり、論文発表に対して寛大だったのです。Communicationsにふさわしいトピックであったことも幸いしたのでしょうか、大きな修正を要求されることもなく、本論文は受理されました。

これについては、ちょっとした逸話があります。投稿の準備ができた日、暦は赤口でした。そこで、筆頭著者である乾 隆 博士(現大阪府立大学教授)の「赤口は正午が吉」という提案により、電話で時報を聞きながら、正午の「ピーン」という音と同時に社内ポストに投函しました(それまで六曜などほとんど信じていなかった私も、この件で考えを少し改めました)。なお、時をほぼ同じくして、カテプシンKがヒト濃化異骨症(pyknodysostosis)の原因遺伝子であることや、カテプシンK変異マウスが骨吸収異常による骨大理石病を呈することなどが報告されました。

さて、ここからはいよいよ、阻害剤候補化合物のデザイン、合成とそのスクリーニングという段階に移っていきます。実はこの頃、チバガイギーと、同じくスイス・バーゼルに本社を置くサンドとの合併が決まり、日本のカテプシンKプロジェクトの雲行きも一旦怪しくなりました。さらにこのとき、私にも転機が訪れました。当時、我々同様に骨代謝研究に関わっていた元・山之内製薬(現アステラス製薬)研究所長の川島 博行 先生が新潟大学歯学部の教授に着任された直後であり、久米川先生にその助手のポジションを紹介していただきました。プロジェクト自体は順調で迷いもありましたが、私は以前よりアカデミアに対する憧れも持っており、決断を下しました。川島先生にも大変お世話になり、途中紆余曲折ありつつも、お陰様で今日までアカデミアにおいて研究を続けられています。

結局、私が退社した後、合併により発足したノバルティス・ファーマにおいてもカテプシンKプロジェクトは存続することになりました。バイオインフォマティクス、有機合成や薬物動態解析の専門家による努力の結果、カテプシンK選択的阻害剤バリカティブ(AAE581)が開発され、第2相臨床試験まで進みましたが、一部に皮膚硬化の副作用が表れ、残念ながら開発中止を余儀なくされました。
カテプシンK物語~その阻害剤_b0115553_17583382.jpg


一方、以前にここで紹介された遠藤先生の御報告にもあるように、メルクが開発したオダナカティブ(MK-0822)については、第3相臨床試験の結果が良好ということで、近い将来に上市の目途が立っています。自分の在籍した会社から新薬が産まれなかったのは残念な限りですが、その同定から関わったカテプシンKの阻害剤が薬となることについては、素直に喜ぶべきことなのかも知れません。

最後に、オダナカチブの成功により、今後カテプシンKに関する研究が再燃する可能性もあります。例えば、カテプシンK阻害剤は脱灰を直接的には阻害しないため、消化されないまま露呈されたコラーゲン線維が骨リモデリングにどのような影響を与えるかなど、長期的に検討すべき課題はまだ残されていると思われます。今後のさらなる研究の進展を期待する次第です。

チバガイギー^はアカデミックな企業で、カテプシンK、昆虫細胞を使った仕事なども学術誌への公開がゆらされました

遠藤先生からカテプシンK阻害剤に関する新情報をいただきましたのでご紹介します。
1.Nature MedicineのNews

2.Nature MedicineのNews

参考文献
1.Inui, T., Ishibashi, O., Inaoka, T., Origane, Y., Kumegawa, M., Kokubo, T., Yamamura, T.: Cathepsin K antisense oligodeoxynucleotide inhibits osteoclastic bone resorption. J Biol Chem. 272, 8109-8112, 1997.
2.Gelb, B.D., Shi, G.P., Chapman, H.A., Desnick, R.J.: Pycnodysostosis, a lysosomal disease caused by cathepsin K deficiency. Science 273, 1236-1238, 1996.
3.Saftig, P., Hunziker, E., Wehmeyer, O., Jones, S., Boyde, A., Rommerskirch, W., Moritz, J.D., Schu, P., von Figura, K.: Impaired osteoclastic bone resorption leads to osteopetrosis in cathepsin-K-deficient mice. PNAS 95, 13453-13458, 1996.
4.Teno, N., Irie, O., Miyake, T., Gohda, K., Horiuchi, M., Tada, S., Nonomura, K., Kometani, M., Iwasaki, G., Betschart, C. New chemotypes for cathepsin K inhibitors. Bioorg Med Chem Lett. 18, 2599-2603.

by rijityoo | 2012-08-30 17:41 | カテプシンK物語(23) | Comments(0)