2013年 01月 23日
本年第1回三水会便り「今ブラジルが熱い―世界で存在感を高める、その実力を追う―」
2013年第1回目の三水会は、ブラジルへの熱い眼差しから始まる。

ブラジルの国花(イッペー)、街路樹でよく見られる花
1月16日(水)16時30分から、東京・神田の学士会館306号室において2013年最初の三水会が、世話人鈴木登氏の司会で開催されました。今回の演題はブラジル生活延べ28年となる筒井茂樹氏による「今ブラジルが熱い―世界で存在感を高める、その実力を追う―」。約2時間、大変中身の濃い聴き応えのあるものでした。
今回の講演者である筒井茂樹氏は元伊藤忠ブラジル会社社長を務められたほかブラジル日本商工会議所副会頭も務められ、退任後は日伯セラード農業開発会社(CAMPO)副社長に就任し2007年に退職、現在は同社諮問委員を務め、毎年2、3回はブラジルを訪問されています。
今回のお話の概要をお伝えしたいと思います。
1. 資源に恵まれた国ブラジル
ブラジルの国土面積は8,511,965平方キロメートルで日本の約22.5倍です(耕地面積は約50倍)。その広大な国土に住む人口は日本とそれほど大差ない約1億9,373万人で、これは同国における牛の頭数とほぼ同じです。GDPは2011年の数字で2兆4,929億ドル。GDPは昨年英国を抜いて世界第6位となりました。
輸出産品としては有名なサトウキビ(砂糖)やコーヒーで、特にサトウキビ(エタノール)は近年バイオ燃料が注目されているなか世界最大のバイオエタノール輸出国にもなっています。食物は小麦のみをアルゼンチンから輸入。また牧畜なども盛んで、鶏肉は日本が大口の輸出先であるほか牛肉はこれまで口蹄疫が発生したことは一度もないとのこと。
鉄鉱石、マンガン、ボーキサイト、ニッケルをはじめ金、ジルコニウム、トリウム、放射性金属に至るまで様々な鉱物資源にも恵まれています。近年は石油の一大産出国となり産出量は世界第4位となりました。水面下実に6,000m以上の、プレソルト層での採掘技術を有しており、他の国にも技術援助をしているとのこと。
エタノール車の普及は世界第1位ですが、ガソリンとエタノールを自由に混合可能なフレックスタイプが開発されています。これまでの約半額で車が生産され、燃料費も安く二酸化炭素の排出量も極めて少ない。ブラジルはアマゾンの酸素供給と二酸化炭素の吸収とがあいまったエコ国家なのです。
2. ブラジル、その強さと課題
(1) 政治がBRICS五カ国中で最も安定している
東西冷戦期の1964年から1985年までは親西側陣営の軍事政権であったが、スムーズに民政に移行できた。特に前政権を率いたルーラ前大統領は元労働組合の指導者で、どちらかといえば「労働者階級の叩き上げ」。初の女性大統領となる現在のジルマ・ルセフ政権もルーラ前大統領の政策を受け継いでいるが、その経歴はちょっと凄みのあるもので、学生時代には反政府活動に従事して投獄された経験を持っている一方、大学では経済学を専攻した官僚出身の政治家。宗教は自由であり、創価学会なども広く受け入れられている。
為替が強く安定しているのも強み。1999年8月に通貨危機に見舞われたものの、2000年代後半に入りすべての通貨に対してレアル高となる状況が進んだ。直近のレートは1レアル=約0.492ドル。対円では1レアル=44.73円。
(2) ブラジルは世界最大の親日国
①地政学的に距離が遠く、また南米における領土問題などで対立がない。
②勤勉で正直な日系移民が築いた信頼がある。
③日伯セラード開発など、資源開発に日本が貢献した。
(3) 日本・ブラジル間の良好な外交・経済関係
(両国のホットな案件)
①日本式デジタルTVシステムをブラジルも採用(日本はISDB-T、ブラジルは派生型であるISDB-Tb)。これをきっかけに南米はペルー、アルゼンチンなど殆どが日伯方式を採用した。
②リオデジャネイロ~サンパウロ~カンピーナス間を結ぶ予定のブラジル高速鉄道についてフランス、ドイツ、スペインなどの強敵欧州勢や韓国、中国などの新興勢がひしめくなか、日本式新幹線の導入に対する期待も高い。しかし導入基準が厳しく未だ決定には至らず。このためサンパウロ~ブラジリア間の高速鉄道は、オリンピックには間に合わないと見られる。
③2年前に日本・ブラジル・モザンビークの3カ国間でサバンナ農業開発に関する覚書が締結された。
(日本とブラジルの経済関係について)
*日本の直接投資額は2011年でわずか75億ドルと極めて少ない。
*輸出入合計は2011年174億ドルと少ないが徐々に増加傾向にある。
教育については、学制は5-4-3-4制(普通科)。公立大学(州立大学、連邦大学)はほぼ無料である一方入学が厳しく、富裕層の子弟は私立大学へ入学する傾向となっています。30年前は非識字率が70%を占めていたが、現在は30%以下へと改善されたようです。
前政権を担った労働者党のルーラ政権、そしてジルマ・ルセフ大統領率いる現政権により税制は相当程度改革され格差も相当是正されていますが、保険制度などは未だ手つかずといった模様。病院の規模、レベルは如何でしょうか。
ブラジルの年金は大変手厚く、公務員などは定年前に退職してノンビリと老後を送る人も多いとか。資源に恵まれた国らしく何事もおおらかでいい国という印象も受けます。しかし治安は以前よりさほど改善されていないので、2014年のFIFAワールドカップブラジル大会や、2016年のリオデジャネイロ五輪の開催には治安の面で一抹の不安も見られます。
余談となりますが、ブラジルで一番信用されている日本の政治家は麻生太郎現財務大臣とのこと。何故と思われる方も多いでしょう。氏のお父上が社長を務めた麻生セメントに在籍していた1960年代後半の1年間、ブラジルのサンパウロに駐在したのが機縁とのことです。「親の七光」か、そうではなく、ご自身の実力・お人柄でしょうか。
アマゾン、リオのカーニバル、世界一の湿地帯、2,000倍のインフレしか予備知識のなかった筆者は大変恥ずかしい思いでした。