2015年 01月 26日
三水会だより「縄文語の名残を話していた人たち(その3)
目次
はじめに
第1部、八丈島の島言葉
aまずこの不思議な言葉を聞いてください。
b 時代による重層言語
c八丈島島言葉は縄文語の名残を伝えている
d方言系統の研究
第2部、日本語の起源:日本石器語の仮説
a 日本列島に渡来した人間たち
b 日本石器語をもって日本列島縦断
c 縄文語とアイヌ語の分離
d 日本石器語から縄文標準語へ
e 縄文語に弥生時代の試練
第3部八丈島になぜ縄文人が渡来したのか
a八丈島の縄文遺跡
b 縄文人が部落総出でこの島に渡った理由はなにか。
c その後の遮断で保存された縄文語。
d 昭和に入って破壊され、絶滅危惧言語となった島言葉
c、八丈島島言葉は縄文語の名残を伝えている
私が八丈町教育委員会に、カルタに「八丈方言は縄文時代の言語のなごりを留めるもの」と書いた根拠を尋ねたところ、「この方に聞いてください」と紹介された千葉大の金田章宏教授は、メールでこう答えてくれた。なお金田氏は八丈島方言を収集分析し、「八丈方言のいきたことば」を書いておられる八丈方言の学術研究者である。
「縄文系の言語のなごりを伝えている可能性がある、と私が推測する理由は、奈良時代の奈良中央に対して、その支配の及ぶ東の端の関東周辺は異民族的(縄文的)な東北に対する最前線であり、つまり弥生化がもっとも遅れた地域=縄文的な要素がもっとも残された地域、であることです。言葉の点で奈良中央と違いがあるとしたら、そうしたことも視野に入れてもいいのではないか、と考えました。ところが、八丈方言のオ連体形に相当する語形が沖縄の石垣方言にもありそうなことが最近になってわかりました。琉大の研究者が年内に発表するはずです。それが確実であれば、状況は変わってきます。つまり、北の縄文系と西の縄文系では別の言語を使用していた可能性がありますが、八丈と石垣とでおなじような古い特徴を持っているということは、奈良中央の言語より古い共通の特徴が同心円状にもっとも周辺に残されたことになるので、どちらにも共通の言語がその土台になっていることになります。奈良中央がうしなってしまった弥生系の古い特徴が八丈と石垣に残った、という可能性が高くなるわけです。
研究が進むにつれて、推測の範囲がだんだん狭まっていき、より断定的な表現が可能になります。石垣方言との共通点が確認されれば、私はもう「縄文的な」という表現は使わなくなるでしょう。いずれにしても、八丈方言が琉球諸方言の一部とともに、日本語の中でもっとも古い特徴を持っていることは確実だと思います。
ウイキペディアの八丈方言の解説者は、島言葉の基本形が、万葉集の東歌に残っているような、古い語形を残していると次のように書いている。
「『万葉集』に記録された東国方言には、四段動詞と形容詞の連体形は、「立と月」「愛(かな)しけ妹(いも)」のように中央語とは異なる独特の語形を取るが、八丈島で話される八丈方言は「書こ時」「高け山」のように、上代東国方言と同様の語形を取ることで知られている。日本語に方言は数あれど、このような活用を残すのは八丈方言など少数である。」
八丈島は東京都に属するので、学校の先生は東京都から派遣される。昭和50年から3年間中学校の校長として赴任した内藤茂氏は、着いた空港で出迎えてくれた人に「ようけにおじゃりあれ」といわれてそれが「夕食に来てください」という言葉だと知り、びっくりしたという。かれもこの方言に取りつかれて、3年間島言葉を収集して、東京に戻って整理して「八丈島の方言」という本を自費出版した。彼はこの島言葉の印象を、優雅な響き、古典でなければ知らない日本の古語の現存。丁寧な敬語と上下の使い分けがはっきりしていることなどをあげている。
d、方言系統の研究
八丈島方言の系統についても、様々な研究がなされてきた。国語研究所の報告書からその一つを引用する。昭和11年(1936)。橘正一著「方言学概論」所収丸尾芳男「52・八丈島方言」は日本の各地の言語と比較して・八丈島の言語の系統について述べた。すなわち、八丈島固有の言語のうち・イサナ(東南風)、ナライ(北風)など72語の語彙をとりあげ、それらの語が日本のどのような地域に用いられているかを調べた。その結果として・地方としては東北地方が、縣としては岩手縣と静岡縣とが・もっとも近いということになった。関東地方について見ると「関東の海岸部の方言とは共通性が多いが、東京や山間部の方言とは似ても似つかぬものである」という結果になっている。そこで、八丈島方言は「黒潮方言」とも名つくべきものであるが、黒潮の流れる関東、東海道の海岸とともに「黒潮方言区」を設けることは適当と考えられない。結局、「八丈島方言」は孤立したものと言う外はない、と結論を出している。
「縄文語の発見」を書いた小泉保氏によると、日本語のアクセントは、東京アクセント・京阪アクセントとアクセントのない一型アクセントがある。一型アクセントを温存している地帯が奥羽南部、関東北部八丈島、大井川上流、宮崎北部琉球であり、これは日本語の古層を保存しているといっている。彼の結論は縄文前期に原日本語が生まれ、九州から琉球へとの道筋を述べているが、残念ながら小泉氏は八丈島言葉の研究がふれられないで終わった。
八丈町教育委員会のパンフレットによると、八丈島方言の位置づけについて、次の図でその独自性を説いている。
