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映像館活動が日経夕刊で取り上げられる

   技術遺産を守る(4) 記録映画、ネットで後世に
    戦後のフィルムを修復
   2017/1/23付     日本経済新聞 夕刊

日本では戦後、科学や技術の記録、啓発宣伝のために多くの映画が制作された。
しかし、こうした作品の多くは長期間ほとんど公開されず、フィルムは死蔵され
たり、散逸したりしている。NPO法人「科学映像館を支える会」(埼玉県川越
市)はこれらの映像を発掘、デジタル化し、10年前からインターネットで見られ
るようにしてきた。

科学映像館のホームページで提供される映像は約850作品に上る。

中心になって活動する明海大名誉教授の久米川正好さん(82)は「貴重な映像は
未来への遺産。埋もれさせてしまうのは大きな損失だ」と語る。
自身、かつて骨の細胞に関する生命科学の映画を3本制作し、研究や教育に活用
してきた。しかし、上映自体が難しくなり、科学映画保存活用の必要性を実感し
たという。

活動は手探りだった。フィルムの情報を収集し、著作権を持つ制作会社などと交
渉、許諾を得てデジタル復元と配信をするが、会社が閉鎖され、制作者が所在不
明になっていることも。許諾を得るまでに3年近くかかった作品もある。

フィルム素材の修復とデジタル復元は専門技術を持つ会社に委託した。高温多湿
の保管環境で劣化し、汚れの除去や小さな傷の修復に時間がかかるケースも珍し
くなかったという。

生命誕生の神秘を描いた映画から配信を始めたが半年ほどは再生が月間数百回に
とどまっていた。その後、大型変圧器を巨大トレーラーで輸送する様子を克明に
記録した作品が話題になり、閲覧が増加。

2011年の東日本大震災の際には、福島原発の調査から建設、稼働に至る経緯を記
録した映画「黎明(れいめい) 福島原子力発電所建設記録調査編」「建設編」
が脚光を浴び、アクセスが急増した。

存在が知られるようになってからは「持ち込み」も来るように。当初は自然科学
や産業、技術に関する映画が多かったが、今は戦争や災害、伝統芸能、民俗を記
録した映像などジャンルも広がってきた。毎週木曜日に新しい作品を配信してお
り、間もなく総配信数は850を超える。

フィルム1本をデジタル化するには10万円程度かかる。運営資金は会員の会費や
寄付、企業協賛金、助成金などで賄ってきた。しばらく運営の支えになっていた
国立国会図書館への映像納入事業が終了したため活動の継続が危ぶまれたが、歯
科診療で発生する「役目を終えた金属冠」の寄付を受ける仕組みができ、今後も
デジタル化を続けられる見通しが出てきたという。

戦後の復興、高度成長の時代だった1950、60年代の映画には、科学を啓蒙したり、
新しい技術や産業を紹介したりする内容が多い。配信映画には近年の作品もある
が、古い科学映画に関心を持つ人は多く、昨年もこうした作品がアクセス上位に
入った。

久米川さんは「科学映画は一説には10万以上あるともいわれ、デジタル化した作
品はほんの一部にすぎない。価値が認識されず、失われていく危機は今も続いて
いる」と訴える。
by rijityoo | 2017-01-24 17:02 | Comments(0)