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貴重な記録映画が廃棄される現状を憂慮する


国内外の貴重な科学映像作品をデジタルアーカイブ化して全世界に無償配信している科学映像館の運営にあたっては当初から様々な課題があった。そのひとつは映像作品に係る著作権の問題である。著作権法では「総合芸術たる映画作品にあっては、その著作権は製作者に帰属する」と記されている。一方で実際の解釈や運用としては、スポンサーでもある企画者の権限が大きいこともあり業界内で必ずしも統一されていない面もある。そのため当法人は製作者および企画者から作品の使用許諾を得るにあたり交渉や調整に大変な時間と労力を費やしたことも度々であった。作品の権利関係の複雑さも相まって作品フィルムの保管についても曖昧となり、かくして貴重な作品の多くが死蔵化の一途を辿るという、科学技術立国を目指す我が国にとってまことに憂慮すべき状況となっている。さらに製作者の老齢化に伴い、制作活動停止、閉鎖した会社も少くない。その結果、作品は散逸していることもある。

また「税金」が記録映画の保管と共有化にとっても頭が痛い問題となっている。最近では企画者が固定資産税の負担を「手っ取り早く」解決するためか貴重な作品フィルムを廃棄する例が見られるほか、「科学映像館」が著作権者から正式な配信許諾を得たのち、デジタル化処理して配信している作品についても、製作者側の意向を無視して一方的に公開禁止せよとの通達が届けられる例も出てきた。企画者が映像データを廃棄したものとなると企画者側自身も何ら使用することができない。企画者は「損はしない」かも知れないが「誰の得にもならない」状態に落ち着いてしまい、結局貴重な映像は永遠に陽の目を見ることなく忘れ去られることとなる。このような状況を黙って見過ごすことはできない。

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この問題の解決にあたっては企画者側が資産としての映像作品を廃棄する際、製作者側と協議して製作者または他の団体に権利を譲渡することが肝要である。斯様の処理により貴重な作品は永遠に忘れ去られることはなく、企画者にとっても有形無形の利益がもたらされる。東京国立近代美術館フィルムセンターなども貴重なフィルムを廃棄しないよう広く呼び掛けていることから、映像作品の関係者には安易に廃棄を選択する前に是非様々な可能性を検討していただきたいと強く願うものである。さる66日日本経済新聞朝刊コラム「春秋」でも取り上げられたが、ただ作品の保管だけでなく、活用できるような緩和策を願いたい。

 


by rijityoo | 2022-08-03 09:47 | Comments(0)