2007年 08月 31日
科学映像撮影の舞台裏、生物資料の提供 その3
材料を若くすればとの意見のもと、胎児マウスの骨片を。しかも出来る限り若い胎生12日目で骨形成が始まったばかりの骨片を用いた。1週間前後で何とか網状の新しい骨組織が得られる目途が。撮影開始後、実に6ヶ月目で本番へ。他の組織に比べ形成速度が遅いため、最低1週間の連続撮影が必要と考え、点滴用セットで栄養の補給と酸素の管理。4分に1駒の割合での撮影に入った。撮影は機械的に制御できるが、フォーカスの調整にはスタッフの力が。数駒ごとに顕微鏡をのぞきながらの徹夜の連続撮影。しかもフィルム時代のため、現像、ポジにプリント後に初めて結論が。スタッフは、夜中、単車で五反田の現像所へ。出来上がった16mmのフィルムを、翌朝、大学へと。この作業の後にやっと使用可能な3カットが得られたのである。
しかし1カットは残念ながら、途中から細菌の感染があり、1部の使用のみ。一場面は新に形成された骨組織に吸収が起こる。まさに骨改造を捉えることが出来たのである。大変感激の場面である。他の映像では、若い細胞が盛んに分裂、分化後、細胞の周辺にコラーゲンなどからなる骨基質を形成。最終的には、基質が骨小腔を形成、細胞自身は骨細胞となる一連の骨形成像を始めて捉えることが。
本の表紙とも言える映画のプロローグとエピローグに制作者の意図が。小林さんは、ここに骨表面の血流を使用。この映像はスタッフが苦労に苦労を重ねて編み出したものである。頭蓋の内部からグラスファイバーを使って照明、普通速度で撮影したものである。心臓の拍動を伝える動物の動きと血流の動態は、ダイナミックな骨の生きた営みを伝える迫力一杯の映像である。
小林さんの生命科学映画では、新しい題材に挑むことが多いため、毎回その準備に大変な苦労が。今回の骨組織の撮影は小林さんにとっても初めてのことである。ガラス内での骨形成は、文献的報告もなく、全くゼロからのスタートであった。しかも骨の形成にはある程度の厚さが必要。しかし厚いと、当然、細胞の観察はできない。しかも他の組織に比べてゆっくりとした代謝。そのため特有な培養法の工夫とスタッフの根気ある撮影で生まれた力作と思う。以上の記載が視聴者に何かの参考になればと。次回はほぼ1年かけたこの映画の制作後談。ご期待を。