1980年前半、破骨細胞の起源と形成様式は、まだ明確ではなかった。そこでこれらの課題に真正面から取り組んだのが今回の映画。ラットまたはヒヒの骨髄細胞または肺胞マクロファージにビタミンDを加えて培養すると、多角細胞が形成されるとの報告が。これらを参考に資料作成の準備に。しかし、ラットの骨髄細胞を用いた系では、形成期間に長時間を要し、頻度が低い。また破骨細胞であるとの確証がないことで、撮影の対象として疑問符が。
ところが予期せぬ展開が。たまたま動物舎に適齢期のラットがいなかったため、スタッフはマウスを用いる。3,4日後には、シャーレ一に多数の多角細胞を発見、しかも再現性があるとのこと。スタッフの報告に嬉しくもあり、不勉強さに恥ずかしい思いを。以後、破骨細胞に関する研究は、マウスが用いられることに。
そこでこの多角細胞の形成様式と破骨細胞の同定に取り掛かる。まず形成様式の観察.融合によるのかどうか?スタッフとともに観察を重ねた結果、融合によるのではとの結論を。次いで破骨細胞の同定。この多角細胞の染色性とかカルシトニンのリセプターの存在だけでなく、骨破壊能力の有無が、最も適切と考え、本格的試料の作成へ。
形成の実証には高いハードルが。どの細胞が何所で多角化するのか?スタッフは丸1週間ぐらい観察に観察を重ねる。デジタル時代の今日であれば、試し撮りも可能だろうが。35ミリフィルムの時代、当然、確実性が求められる。下左の写真は即本番の映像である。神がかり的なカット。しかし、この映像はスタッフの長時間にわたる観察力と洞察力から生まれたもので、決して偶然の結果ではない。

一度分離し、遠く離れた細胞を引きつれ元の細胞と再融合。細胞表面に特異性を示唆する映像である。しかもこれらの細胞は骨吸収能を発揮『下右の写真』、すなわち破骨細胞であることが明らかに。骨吸収評価系がチャンバーズ博士によって提唱され、本格化されたのは、この映画の完成4年後のことであり、小林さんとスタッフの先見性と洞察力に頭が下がるのみである。