2007年 09月 19日
OSTEOCYTE制作の舞台裏 その2
ネイベイド博士が来室した本来の研究課題、骨細胞に特異的に発現している遺伝子の同定。彼の方法は、形態的観察には対応できるが、分離細胞数が不十分。多数の細胞を得るための予備実験にかかる。骨組織の構造から、至って簡単な方法にたどり着く。その要点は、骨細胞のみを含んだ骨片を機械的と酵素処理で用意。その後、その骨組織を酵素で消化、細胞を集めると至って単純な手法を確立(分離方法はこちら)。骨細胞に特有な遺伝子の同定には至らなかった。しかし、数千個の卵から精製したタンパク質に破骨細胞の活性抑制因子の同定を。
これらの研究は、まさしく異分野の人、ベイネイド博士、企業からの参加者らとの共同研究の成果の一例と考える。また特定の細胞の分離には、組織の構造、細胞の特性をまず十分吟味し、それぞれに適した手法をあみ出す工夫が。破骨細胞の分離には細胞の接着性がキーポイントであり、骨細胞は細胞のみを含んだ骨片がキーポイントとなった。
予断ですが、破骨細胞と骨細胞共存の映像は、映画、北京原人のプロローグに使用された。
ご覧になった方もおられるかと思う。
2007年 09月 17日
OSTEOCYTE制作の舞台裏、その1
2ヶ月の滞在であったが、研究以外にも多くのことを。今日、日本で問題になっている家庭、コミュニテイの崩壊問題、福祉と税制、教育制度などなど。日本の様に歯科医師が過剰となると、各大学の学生定員数でなく、大学数で調整するとのこと。例えば、オランダでは、7大学中4歯科大学は、管理下で閉校中とのこと。
大学教授でありながら、彼自身コミュ二テイの世話人の役割も。一方、自宅の裏には運河が流れ、カヌウを楽しむ日課、なんとも羨ましい生活。また、来日中も読書を欠かさない毎日、日本人は読書が足りないと一言。

本来の研究課題以外に、形態と機能を保持した分離骨細胞の美しさに。この細胞を用いた科学映画の企画が持ち上がる。骨細胞なくして生きた骨とはないと言われるも、骨細胞の働きはまだ定かでなかった。そこで映像で骨細胞に迫ってみようと。
今回の映画では骨細胞の動態と機能および骨細胞と破骨細胞との相互関係の可能性を撮影目標に会社を説得、本番へと。予備実験を行った後、細胞を五反田のヨネプロに運び撮影。分離骨細胞の管理は厳しく、担当者の苦労は大変であったと思う。骨細胞の働きとして、まずヱイカスによるギャップ結合の実証。破骨細胞と関係は両細胞の大きさの違いから証明はできず、主として映像でとなる。骨中に存在している骨細胞をみて、小林さんは一言、今回のテーマは濡れだと。素晴らしい洞察力に感心。

2007年 09月 14日
The Bone II 撮影の舞台裏 その3
研究には、幅広い基礎的な知識と洞察力、そして幅広い視野にたっての考えが大切。そのためには、幅広い分野での活動と人的交流も大切であろう。そして常に複眼力を。
波間からせり上がる裸婦のカットは、海から陸への動物の進化過程における骨をイメージした映像。ではこの映像はどのように撮影されたのか? ある日、撮影現場に足を運び、びっくり。大きな実験机の上に手製のプールが作られ、満々と張られた水。スタッフが交代で延々と人工波を。この波を背景に例の真っ白な裸婦がせり上がる。この映像のデジタル化で、背景の波の色が裸婦に反映し、ピンクがかっているのは非常に残念。
実は、今回も商業映画ではなく、科学映画に徹したため、企画した会社との調整は難航。
監修者ともども落とし所では大変な苦労があった。その中で会社の担当者の理解と協力には大いに感謝。
追記
以上2編の映画は多数の情報と研究素材を。映画の完成後、教室は破骨細胞の研究へ。自治医大の須田先生等との破骨細胞の起源の実証に始まり、骨吸収評価系の確立、破骨細胞の分離と特異遺伝子の分離,同定など。その間、国内外の多くの研究者と交流。当時大学に、海外の研究者を招聘できる制度があり、教室はこの制度を大いに活用。ホートン博士、ネイベイド博士ら7人の研究者は、公私にわたり、私たちに大きな贈り物を。次回からネイベイド博士とともに分離した骨細胞と映画, OSTEOCYTE、制作の舞台裏を。
2007年 09月 12日
The Bone II 撮影の舞台裏 その2
ところが予期せぬ展開が。たまたま動物舎に適齢期のラットがいなかったため、スタッフはマウスを用いる。3,4日後には、シャーレ一に多数の多角細胞を発見、しかも再現性があるとのこと。スタッフの報告に嬉しくもあり、不勉強さに恥ずかしい思いを。以後、破骨細胞に関する研究は、マウスが用いられることに。
そこでこの多角細胞の形成様式と破骨細胞の同定に取り掛かる。まず形成様式の観察.融合によるのかどうか?スタッフとともに観察を重ねた結果、融合によるのではとの結論を。次いで破骨細胞の同定。この多角細胞の染色性とかカルシトニンのリセプターの存在だけでなく、骨破壊能力の有無が、最も適切と考え、本格的試料の作成へ。
形成の実証には高いハードルが。どの細胞が何所で多角化するのか?スタッフは丸1週間ぐらい観察に観察を重ねる。デジタル時代の今日であれば、試し撮りも可能だろうが。35ミリフィルムの時代、当然、確実性が求められる。下左の写真は即本番の映像である。神がかり的なカット。しかし、この映像はスタッフの長時間にわたる観察力と洞察力から生まれたもので、決して偶然の結果ではない。


一度分離し、遠く離れた細胞を引きつれ元の細胞と再融合。細胞表面に特異性を示唆する映像である。しかもこれらの細胞は骨吸収能を発揮『下右の写真』、すなわち破骨細胞であることが明らかに。骨吸収評価系がチャンバーズ博士によって提唱され、本格化されたのは、この映画の完成4年後のことであり、小林さんとスタッフの先見性と洞察力に頭が下がるのみである。
2007年 09月 10日
The Bone II 撮影の舞台裏 その1
第二作では前回と異なり、制作目標がある程度明確に。その一つは第一作で問題となった破骨細胞は何細胞から出来るのでしょうか?即ち破骨細胞の起源と形成である。もう一点は動物での骨形成の映像化。この2点に絞られ、検討が続いた。
今回は骨形成について。異所性の石灰化を誘導する骨形成因子(BMP)を用いて骨形成をと。当時阪大でおられた高岡先生に資料などで大変お世話になった。その映像化のため、腹筋に窓を持ったチャンバーを植え込み、2個のプリズムを使って腹腔側から照明し、顕微鏡で観察しようとの仕組み。スタッフは、まずチャンバーの試作、全て手作りである。腹筋にMBPを含んだチャンバーをセットし、動物を仰向けに固定。この状態で長期間の飼育と観察、大変ユニークな発想。残念ながら、骨形成までにはいたらなかった。

初期の目的、骨形成の映像は得られなかったが、予期せぬ映像、血管の新生像が。筋組織から血管が新生し、赤血球が血管をこじ開け、管腔を形成するといった珍しい映像が撮影された。写真はその映像である。
このシステムを考案、試作したのは、九州大学文学部フランス語学科出身者で、科学映画製作に取り組む物静かな青年であった。小林さんを幅広い分野の人たちが支え、根気よく各カットの映像化にそれぞれの工夫と仕組みを。次回は破骨細胞の形成について。